BMWもスタイリングの適正進化がとても上手なメーカーです。ここではモデルチェンジについての適 正進化とは“継承と進化が両立している状態”として使っています。 車のデザインに限らず、モデルチェンジの際に、スタイリングを全て改めるということは「前のスタ イリングは間違っていました。反省して、全て作り直しました」という意味にもなります。メーカーの 弁では「前モデルは長期間作っているので飽きられてしまうから」という理由になるのでしょうが、そ もそも飽きられてしまうデザインであることに問題があると考えるべきでしょう。 本来のモデルチェンジの目的は、技術の進化により、より性能の良い製品に作り替える可能性を現実 ものにする、というところにあると思います。スタイリングやマーケティング的進化についても全く同 様です。前モデルの美点や風合いを残した上で進化させるということは、より重い条件が課せられるこ とであり、モデルチェンジの作業をより難しいものにします。しかし適正進化に成功すると、いくつも の利点を手にすることができます。メーカーとしてのイメージ資産の積み重ねが可能になります。ゼロ からのスタートではなくなるのです。 車の場合には、中古車市場での価格の維持は、メーカーにとって重要な意味を持ちます。適正進化し たモデルチェンジでは、前モデルが古びたものにならないで済みます。中古車市場での価格は新モデル 販売の大きな武器になります。 最近のBMW三世代での進化の過程では、スタイリングの適正進化の理想的なお手本を見ることができ ます。 イラストにしたBMW 325i Touringはステーションワゴンです。ステーションワゴンは優雅な乗り 物です。大きな荷物を積み込んで、最高速度220km/hほどで突っ走ることができるのですから。 雑誌「カー・グラフィック」の記事によると“車検上で49.3:50.7という優れた前後重量配分と情報 豊かなステアリングとの組み合わせは、街中を流すだけでも満足感をもたらしてくれる。微舵に対する 的確でしなやかな反応は、車全体が隅々まで精密に組み上げられてこそ得られるのだろう.... 標準仕様の繊細さを好むのは筆者だけではないはずだ。ワインディングロードに足を運べば、さらに濃 密な車との対話を楽しめることはいうまでもない。高回転できれいな共鳴音を奏でる6気筒エンジンは 6500rpmまできっちり回るうえ、ATの変速のキレ味も鋭く極めて扱いやすい” となります。 BMWは傘下におさめたローバーの再建に失敗するなど、決して万能の会社ではありません。しかし、 高品質な製品を長期間にわたって使い続けられる構造をつくり上げたという点では、 成熟社会での会 社のありかたの一端を体現している、学ぶべきところの多い会社です。 全長 4480mm×全幅 1740mm×全高 1435mm、乗員数 5名TOP画面に戻る